トップページに戻る
  少年リスト   映画リスト(邦題順)   映画リスト(国別・原題)  映画リスト(年代順)

Midnight Special ミッドナイト・スペシャル/無償の愛

アメリカ映画 (2016)

ジェイデン・リーバハー(Jaeden Lieberher)が異世界に属する8歳の少年アルトンを演じる風変わりなSF映画。アメリカではシリーズ化した宇宙物やヒーロー物以外にも多くのSF作品が量産されているが、この映画の「味わい」は比肩できないほど独自で、アルトンに向けられたひたむきな両親の愛は、痛々しいほど報われない。監督は、「両親の愛に気付かずに心配をかける幼い自分の息子」に思いはせて脚本を書いたと述べている。アルトンが両親の多大な犠牲の末に本来属する世界に戻り、「それっきりさようなら」状態で二度と戻らないという設定は、こうした「無償の愛」の結果でもある。また、別の次元の世界が人類を見守っているという設定は、宇宙人が異次元に変わっただけでそれほど突飛ではないが、その異次元の生命体がなぜ地球人の胎児として産まれたかについて納得のいく説明はされていない。あらすじで何箇所も指摘するように「不可解な点」もしくは「ミス」の多い脚本だが、それでも最後まで観てしまうのは、謎の演出法の巧みさに惹かれるからであろう。

映画は、8歳のアルトンが誘拐されたとTVが報じるところから始まる。クライム・アクションのような出だしだが、アルトン、特にその目が極度に光に弱いことが普通と違っている。そして、アルトンは信仰宗教団体に絡んでいて、その話した言葉の中には、政府の機密情報が混在し、それをFBIとNSAが極秘調査していることが分かるに至り、映画は新たな様相を呈する。単なる誘拐犯罪ではなく、幼い少年による「極秘情報の不可能な入手」だ。映画では、アルトンが奇妙なことを口走るだけでなく、目から強力な光線を出すことができ、太陽の元では生きていけないなど、人類ではない証拠が次々と明かされ、SFへと変質していく。それにもかかわらず、アルトンを宗教団体から連れ出した実の父親が、なぜ特定の日に特定の場所に行かなければならないのか、説明されないまま逃避行は続く。そして、アルトンの突然の変身。アルトンは太陽光線の下でも生きられるようになり、何よりも、自分が誰なのかをはっきりと認識する。そして、目的地に着くと、両親との永遠の別れが待っていることも自覚する。両親も、永久の別れを覚悟しつつ、愛する息子のために命を投げ打って軍の警戒線へと突入する。

ジェイデン・リーバハーは2003年1月4日生まれなので、撮影時(2014年1月20日~3月1日)は11歳。8歳の役にはかなり年上だが、それほど違和感はない。撮影順では、『Playing It Cool(プレイング・イット・クール)』が9歳、『ヴィンセントが教えてくれたこと』と『アロハ』が10歳で、この作品がそれに続く。ジェイデンは2010年代に活躍した子役の中で最も個性的で、演技力が高いだけでなく極めて知性的な少年だ。アントン役にこれほどぴったりの少年は他にいないだろう。


あらすじ

場所はテキサス州。TVのキャスターが、トップニュースとして、「8歳の少年にアンバーアラートが発令されました」と話し始める〔アンバーアラートは、児童誘拐・行方不明事件に対してTV、ラジオ、モバイルに対して発信される警報〕。「少年は、昨夜、テキサス州エルドレード近くの自宅から誘拐されました。写真は入手できていません。少年の名前はアルトン・マイヤー君です。8歳で、白人、青い目、茶色の髪、身長4フィート8インチ〔142センチ〕、体重約60ポンド〔27キロ〕です。マイヤー君の両親の話では、日曜の夜に姿が見えなくなり、ロイ・トムリンという男が連れ去った模様です」。そして、TVにはロイの顔が表示される(1枚目の写真、矢印)。「警察の情報によると、男は武装しており、きわめて危険な人物だそうです」。窓をダンボールで内張りした室内で、ロイは1挺の銃をバッグに入れ、もう1挺をズボンに入れている。一方、アルトンは、ツイン・ベッドの間の隙間で 頭からシーツをかぶり、懐中電灯を照らして何かを見ている。ロイがシーツを取ると、ゴーグル〔真っ黒なサングラス入り〕をかけ、ヘッドホンをはめたアルトンが姿を見せる(2枚目の写真)。ロイはヘッドホンを外すように手で指示し、「時間だ。いいか?」と訊く。「うん」。部屋には、もう1人男性がいる。ロイはアルトンを抱きかかえ、アルトンは首にしがみつく。誘拐されたという状態ではない。3人はモーテルの部屋から外に出て行く。外は、日没後で、まだ薄明かりが残っている。3人は車に向かう(3枚目の写真、矢印はアルトン)。しかし、この状況を、モーテルの管理人が事務所から見ていて、警察に通報してしまう。車は、もう1人の男ルーカスの物で、車にはハイウエイ・パトロール用の無線装置がついている。高速道路を走行中 突然指令が入る。「指名手配犯に関する通達。1972年型シボレー・シェベルに警戒。塗装はグレー。ナンバーは、テキサスの159AG2。2人の白人男性が運転。インターステイト30号線を東に向かって逃走中」。ルーカスは即座に高速を降りて一般道に入る。そして、暗視ゴーグルを装着し、ヘッドライトを消してアーカンソー州を目指して車通りのない夜道を突っ走る。
  

「ランチ〔大放牧場〕」と自称する新興宗教団体の教祖カルヴィンが、信者達を前に説法をしている。内容はアルトン・マイヤー語録の2011年3月17日の記述。「メキシコ湾を覆い、数字が現れる。高いビルが聳え、光が発せられる。それらの源を知ることで、この世界における我々の立場を知ることができる」というもの(1枚目の写真、矢印は教祖)。信者達は、全員で数字を唱和する。「35 47 97 52」〔この数列は、映画の中では無意味〕。突然、会場にFBIの捜査官が現われ、サンアンジェロにある高校までバスで連れて行くと告げる。多くのFBI職員が信者をバスへと誘導する。一方、ロイの一行は州境に近づいたところで交通事故を目撃し、乗員を助けようとしてパトカーを停めたところ、手配車だと気付かれる。ロイはアルトンの方が大事なのでルーカスに警官を「撃て」と言うが、ルーカスは警官に「車に戻れ」としか言わない。しかし、警官が拳銃を出そうとしたので、やむをえず撃つ〔ルーカスは州警察の人間なので、仲間の警官を撃ちたくない〕。再び運転を始めたルーカスに、ロイは「彼は防弾ベストをつけていた」と言うが、ルーカスは「ホントに知ってたのか?」と懐疑的。そこで、ロイはくり返す。「この子の方がずっと重要だ」(2枚目の写真)。ルーカスは「奴は州の警官なんだぞ。撃てと言われて撃てるか」と反論する。高校に連れて行かれた信者たちはFBIから聴取を受けるが、一番厳しかったのは教祖に対する取り調べ。そこにはNSA〔国家安全保障局〕から派遣されたポール・セヴィエも同席する。ポールはまだ採用されたばかりなので、丁寧に説明する。「あなたが説法に使っている言葉や数列には、高度に暗号化され衛星経由で送信された政府の機密情報が含まれているのを承知していますか? それらを解読し流布すれば、重度の反逆罪に問われるのは確実です」(3枚目の写真、中央右がポール)。教祖は、自分の説法はアルトン・マイヤーが口にした言葉を引用したに過ぎないと打ち明け、責任を回避する。アルトンは息子かと訊かれ、養子だと答える。本当の父親はロイ・トムリン。そして、アルトンが突然口にする意味不明の言葉を「神の言葉」として聖典にしたと説明する。DVDの特典映像では、映画では紹介されていない「登場人物の設定」についても語られる。ロイは、高校生の時、両親に連れられて「ランチ」に入信した〔ということは、「ランチ」は1990年頃にはもう設立されていたことになる〕。一方、アルトンの母となるサラは、ロイより8歳ほど年下だが、ドラッグにはまり、家族と疎遠となっていた時にロイと出会って入信した。2人は結婚し、2007年にアルトンが生まれる〔アルトン・マイヤー語録の映画の中での最古の日付は2010年1月18日なので、アルトンは3歳の時から不思議な言葉を話し、誰かがそれを書き留めていたことになる〕。教祖がアルトンを「神の子」として利用しようと考えたのは2013年で、ロイとサラに「神の声を聞いた アルトンは君たちではなく私の子だ、今後は私の息子として育てる」と言い渡し、2人の手から奪い取る。怒って拒否したサラは「ランチ」から追放されるが、ロイは「ランチ」に残り、遠くからアルトンを見守り続ける。2015年3月6日(金)は「予言」の特別な日。「ランチ」では世界の終わりと思われている。そこで、ロイはアルトンをその3日前に「ランチ」から救い出し、幼い頃からの友人ルーカスの助けを借りて逃亡を図った、というのがここに至るまでの状況。
  

ロイの一行は、夜が明ける前に元信者の家に辿り着く。アルトンの泊まる部屋は、映画の冒頭と同じく、ダンボールで窓が内張りしてある。ロイに抱きかかえられて部屋に入ったアルトンは、上着を脱いでベッドに横になる(1枚目の写真)。そして、ロイに促されてゴーグルを外す〔この映画の前半では、アルトンの素顔はほとんど見られない〕。「できるだけ眠るんだ。起きたら朝食にしよう」。ロイが居間に行くと、そこではTVがアンバーアラートの続報を流している。ただ、ここはテキサス州から出ているので、アラートが全米に拡大されたことが分かる〔この「誘拐」情報を誰が通報したかは、映画の中では説明されない。教祖は否定するが、NSAもアルトンがどんな人物かある程度把握しているので、どちらが通報に介在したのかは不明。アルトンは、「ランチ」の中で神格化されているので、アルトンの面倒を見ている女性が通報した可能性もある〕。ルーカスが見張りに付き、ロイが先に眠る。しかし、数時間経ってロイが熟睡していると、異常な振動で目が覚める。急いでアルトンの寝室に駆けつけると、そこでは一夜の宿を提供した元信者がアルトンの目から出る光と向き合っていた〔この後の場面で出てくるFBIによる信者の聴取でも、アルトンの目から出る強い光が神聖視されていたことが分かる。元信者は、それをもう一度見たくて、アルトンを起こしてしまった〕。見つめ合うという共振現象のためか、家全体が地震に襲われたように振動し、壁が一部壊れて太陽の眩しい光が差し込む。ロイは床に落ちたテーブルランプの台で元信者の頭を殴って共振を止めるが、太陽光を浴びたアルトンは苦しみもがく(2枚目の写真)。ロイは自分の体でアルトンを大急ぎでベッドから出すと、自分の体で光を遮るようにアルトンを包み込む(3枚目の写真、矢印はアルトン)。この事件で、①アルトンの目から凄まじい光線が出ること、そして、②アルトンは太陽光に極めて弱く、だから夜間に車で移動し窓には内張りが必要、という2点が分かる。
  

ロイは、そのまま夜になるまで家の中で待機する。朝食の食パンを前に、アルトンは食欲ゼロで、元気がない。先ほどのショックが体に変調を来たしたのか? 真夜中、運転しているのはロイ。それまでかなりの距離を走ってきた様子。アルトンは、車の天井に目を向けると、いきなり早口でスペイン語を口走る。ルーカスはびっくりするが、ロイは慣れたもので、ラジオをつけると全く同じ声が聞こえてくる。NSAが話していた「衛星・通信・送信」という言葉の意味が何となく理解できる場面だ。アルトンは電波なら何でも拾ってしまう。ロイは途中の24時間営業のGS+コンビニで車を停める。ロイは、「すぐ戻る。バンから出るな」と言い残し、ルーカスと一緒に店に向かう〔最初から乗っていたルーカスの車は手配されたため、元信者の業務用のバンを徴用した〕。アルトンはバンの中で待っていたが、急に天井を見上げ始める(1枚目の写真)。気になったのは天井ではない。アルトンはバンのドアを開けると、空を見上げ(2枚目の写真)、「出るな」と言われたことなど無視して外に出る〔バンは給油中〕。そして、GSから離れた場所まで行き、じっと空の一点を見続ける(3枚目の写真)。
  

ロイは、これから向かう予定の妻のサラに電話をかけるが、アルトンが駐車場で空を見上げているのに気付き、電話を中断して駆け寄る。ロイは、アルトンがバンを離れたことを強く諌めるが、すぐに空の異変に気付く(1枚目の写真)。空から何かがいっぱい落ちてくる。それも、アルトンを襲うかのように。ロイがアルトンを抱き、駆けつけたルーカスと一緒にバンに向かって逃げ戻る(2枚目の写真)。ルーカスは、給油を無視して急発進し、難を逃れる。しかし、アルトンの耳からは血が出ている。「パパ」という声にロイが振り向くと、アルトンは鼻からも血を流している(3枚目の写真)。先ほどの「大量の隕石」と関係がありそうだが、なぜかは分からない。ルーカスは病院に行くよう勧めるが、ロイは、3月6日が期限なので、そのままサラの家に向かうよう主張する。
  

サラは、ロイから電話をもらった後、家の外に出てアルトンの到着をずっと待っていた。教祖に息子を掠め取られて「ランチ」から追放されて2年間、サラは一度もアルトンに会っていない。母の思いは相当強かったはずだ。バンから降りたアルトンは母に抱きつく。サラは再会を神に感謝する。「よく見せて」。夜なのでゴーグルをずらして目を見る。「大きくなったわね」(1枚目の写真)。サラとロイは、プレゼントで遊ぶアルトンを見ながら、2年ぶりの親子での楽しいひと時を味わう(2枚目の写真)。「いつまでも見ていたいわ」。サラとロイは手を握り合う。アルトンが眠くなると、ベッドに寝かせ、「よく休んで」とキスをする(2枚目の写真)。サラ、ロイ、ルーカスの3人だけになると、アルトンの体が弱っていることが話題になる。ここでも、ロイは3月6日に拘る〔ロイが、目的地を、いつ、どうやって知ったのかは明らかにされない〕。ここで場面は、NSAのポールに変わる。彼がFBIのヘリで着いたのは昨夜のGS。周辺では、放射能防護服を着た作業員が落下物を調べている。ものものしい光景だ。「ランチ」でも一緒だったFBIの捜査官が出迎え、「いったいどうやったら軌道上の衛星を落とせるんだ?」とポールに話しかける。彼は答えも知っていた。「アルトン・マイヤーは、昨夜、空軍の衛星を墜落させた。DSP-9712。目的は…」。ここでポールが言葉を継ぐ。「核爆発の探知」。そして、衛星から送られてきた最後の画像をポールに見せる。「熱反応の中心にいるのがあの子に違いない」。事態は、政府の機密情報の漏洩だけでなく、不可能とも思える軍事衛星の誘導・墜落へと発展する。そして、ポールはアルトン・マイヤー専門担当官に指名される。
  

TVでは、気象衛星がルイジアナ州北部のGS付近に落下し、60マイル〔96キロ〕四方に散らばった破片の撤去作業が今も進行中だと伝えている〔2011年にNASAの大気研究衛星が墜落した際、地表まで破片が落下する可能性が指摘されたので、気象衛星だとしても矛盾はしない/普通は海に落下するが、今回はアルトンに向かって落ちて行ったので地上に落下した〕。大ごとになったので、家の表に停めてあった車を裏に廻すよう頼みに行ったサラと、車からハイウエイ・パトロールの無線を外しているルーカスとの間で会話が交わされる。その中で、ロイとルーカスは幼なじみで、「ランチ」に入るまで仲良しだった。そして、3日前にロイが突然やって来て、助けてくれと頼まれたと話す〔その時、アルトンの目から発せられる光を見て助けることにしたとあるが、20年以上も音信不通だったのに、州警察の人間が、公式には「誘拐犯」になっている人物に手を貸すだろうか?〕。その日の夜、サラも加えて4人で出発〔サラのいすゞロデオ〕。後部座席に座ったサラは、アルトンに衛星落下について尋ねる。「あなたがやったの?」。「そうだよ」(1枚目の写真)。「なぜ?」。「僕を監視してた」。運転中のルーカスが「誰が監視してたんだ?」と訊く。「警察」。「なぜ警察だと思うんだ?」。「無線の警察みたいに話してたから」。今度は、ロイが「何て言ってた?」と訊く。「僕を捜してた」。次のシーンでは、サラがウトウトしているので数時間後だろう。突然 アルトンの息がつまる。ロイは急いで車を路肩に停める。アルトンは、何とか息ができるようになるが、体調がおかしい。突然、意図せずに、ゴーグルをかけたままで、目から強い光線が出る(2枚目の写真)。発光は不定期に何度もくり返され、その度にアルトンは苦しむ。他の3人は眩しくて目が開けていられない。アルトンは車から出ると、路肩の奥の芝生まで行って吐く。サラは、心配してアルトンの体を支えるが、アルトンの周りの芝が急速に枯れていく(2枚目の写真、矢印は枯れている部分)。10秒ほどで枯れた範囲は前後10メートルほどに拡がる。驚いたルーカスは、「死んじまうぞ!」と病院に連れて行くよう強く主張するが、ロイは「死ぬはずがない。この子の存在には目的があるんだ!」と受け付けない。
  

当のアルトンは空を見上げ、「行かないと。彼らが来る」と言い出す(1枚目の写真、頬がこけている)〔「彼ら」が何を指すかは示されないが、後で、FBIか軍のヘリが飛来する〕。そして、サラには、ルーカスと一緒に車で行くよう頼み、ロイには「パパ、行かないと。あっちだ」と森の中に一緒に入って行くことを求める。全員がそれに従うしかない。ロイはアルトンを抱いて森の中を小走りに進む。しかし、何かにつまずいて転倒してからは、アルトンは、「僕、走れるよ。こっちだ」と走り始める。画面は真っ暗で何も見えない。「増感」させて観ると、しばらく森の中を走った後、アルトンは深い茂みの中に入って行く。その先は岩場になっていて、最後に2人が辿り着いた場所は水辺の岩屋のような場所だった。ロイ:「数時間で日が昇る。日中はここに隠れていよう」。その時、疲労でアルトンが倒れる。それにもかかわらず、アルトンは、「僕、どうしてもしたい」と言い出す。「何を?」。「昼間、起きていたい。日なたで」(2枚目の写真、目の隈(くま)がひどい)。「無理だ」。「やらないと」。「死んでしまう」。「パパ… やらないと」。画面が変わり、NSAのポールが、アルトン・マイヤー語録の場所と、そこで述べられた緯度と経度が書かれたボードをじっと見ている〔これらの数値に何の意味があるのかは不明。例えば、テキサス州サンアンジェロの場合、「北緯31º27’47.77”、西経100º26’13.62”」と書かれているが、これはサンアンジェロの都心から約25キロ南東の野原の何もない場所を指す。他の都市も同じ〕。ポールは、数字と地図を見て、最後にアトランタの右に書かれた西経の「84」と、オースチンの右に書かれた北緯の「30」に丸を描き、目的地が分かったと言う。しかし、なぜそれが正解なのか、観ている方はさっぱり分からない。ただし、「北緯30º16’01.75”、西経84º23’16.75”」の地点は、フロリダ州タラハシーの南32キロのメキシコ湾に近い自然保護区の中で、実際にアルトンが向かう場所になっている(3枚目のGoogleマップの赤いピン印の場所。フロリダ半島の「印」については後述)。夜明けが近づく。アルトンとロイは、岩屋ではなく、野原の端にいる〔増感していないと、場所の変化に気付かない〕。2人は無言で頷き合い、ロイはアルトンを横抱きにして野原に出て行く。日が昇れば、太陽の光からは逃れようのない場所だ。アルトンは、「パパ、これでいいんだ」と弱々しく言って首にすがりつく。そして、いよいよ太陽が姿を現し、朝日が当たり始める。アルトンの目から強烈な光が発せられ、地面が激しく揺れ、地割れが起きる。そして激しい爆発(4枚目の写真)。
   

サラとルーカスは近くのモーテルに部屋を借り、2人がいつ戻って来てもいいように窓に内張りをして待っている。一晩が過ぎ、日が昇り、時計が午後3時47分を指した時、ドアを誰かがノックする。日中なのでロイのはずがない。ルーカスが拳銃を持って警戒しながら覗き穴に貼ったテープを剥がして外を見ると、そこにはアルトン達がいた。ルーカスは、「ウソだろ」と言いながらドアを開ける(1枚目の写真)〔部屋の位置はサラの車で分かったのだろうが、そもそも、ここにモーテルがあると土地勘のないロイがどうして分かったのだろう? 「道路の先にある最初のモーテルで」とでも約束したのだろうか?〕。部屋に入ったアルトンに、サラは、「元気になって」と声をかける〔確かに、こけた頬や目の隈はなくなり、すごく元気そう〕。ルーカスは、「真っ昼間だぞ」「ゴーグルなしだ」とロイに疑問をぶつける。アルトンは内張りの紙を1枚剥がして、差し込む光を嬉しそうに浴びると、「今朝、日の出を見たよ。自分のことが分かったんだ」(2枚目の写真)と話し始める。右手を掲げて「一つの世界があるんだ…」と言い、次に左手をその下に置いて「僕たちの世界の上にね」(3枚目の写真)。「そこにも人々がいる」。そう言うと、今度は左手の手の平をすぼめるように掲げ、じっと見つめる。すると、手の平の中央が光り出す。目から出る真っ白な光ではなく、電灯のような黄色っぽい光だ(4枚目の写真)。アルトンは手の平をサラとルーカスの方に向ける。「僕と同じ人たちなんだ」。そう言うと、目も白く光り始める〔最大の疑問は、2つの世界があるとして、なぜその世界の生命体が、ロイとサラの赤ちゃんとして誕生したのだろう?〕
   

アルトンがシャワーを浴びている間に、サラがロイに話しかける。「もし、アルトンがこの世界の人でなかったら? 覚悟しないと… 明日が来たら… いなくなってしまうかも」。すごく厳しい予想だ。ロイはそこまで考えが回っていなかった様子。出発の準備ができて、ルーカスを先頭にドアから出ようとすると、いきなり銃声がして、ルーカスが撃たれる。話は、かなり戻るが、「ランチ」の教祖は、アルトンが連れ去られた段階で、2人の信者に奪回を命じていた。2人は、サラの母親から娘の住所を訊き出し、サラの家に侵入して自動車保険の領収書から車種やナンバーをつかんでいた。その後、どうやってアルトンの向かった方向を知ったかは謎だが、とにかくモーテルにあるサラの車を見つけ、4人が部屋から出てくるのを待ち構えていた。そして、ルーカスが現れたので、すぐさま撃った次第。銃声を聞いたロイは、ルーカスに続いて出ようとしていたアルトンを部屋に引き戻すとドアから出て応戦し、信者の1人に重傷を負わせる。しかし、もう1人に肩を撃たれる。ロイとルーカスは、結束バンドで両腕を外廊下の柵に固定されて身動きできなくなる。部屋に侵入した信者は、サラからアルトンを取り上げ、頭から袋を被せて連れ去る(1枚目の写真、矢印はアルトン)。サラは、結束バンドで両腕を浴室のタオル・ハンガーに固定されるが、力まかせに暴れてハンガーをタイルから剥がし取って脱出。ルーカスが身につけていたカッターでロイの結束バンドを切って自由にする。そして、3人で車に乗り、信者のトラックの後を追う〔8発も銃声が響いたのに誰も出て来ないのはなぜ?〕。しばらく追って行くと、行く手には渋滞の長い車列ができている。路肩を走って先を急ぐと、かなり先で警察に本線に戻される。仕方なくノロノロと進むと、見えてきたのはパトカーと信者のトラックと離陸していくヘリコプター(2枚目の写真、矢印)。結局、アルトンはFBIに捕まってしまった。
 

アルトンが連れて行かれたのは、軍の特殊な施設。真っ白な部屋の真ん中に1つだけ置かれたイスに、ゴーグルをはめたアルトンが座らされている〔モーテルで拉致された時、ゴーグルをしていなかったし、信者もゴーグルを捜す暇などなかったはずだが…/そもそも、なぜ、FBIはゴーグルを装着させたのか?〕。アルトンが向かい合う「観察室」には、20名弱の関係者が固唾を飲んで見ている。児童カウンセラーの女性がマイクに向かって質問を始めるが、何を訊いてもアルトンは答えない。しばらくして、口を開くと、「ポール」と一言(1枚目の写真)。「それは誰?」。「僕は、ポール・セヴィエと話したい」。そこで、ポールが女性と替わって席に着く(2枚目の写真、矢印はポール)。ポールが質問を始めると、アルトンは、それを遮るように、「僕は、彼一人としか話さない」。そう言われてはなすすべもないので、ポール以外の全員が部屋から退去する。施設は立派でも、牛耳っているのはアルトンだ。
 

ポール:「いいぞ。何から始める?」。ポールの脇にあるモニターが一瞬点滅すると、映像がアルトンに乗っ取られる。部屋の中のアルトンは立ち上がったのに、モニターの映像は座ったままだ(1枚目の写真)。そして、ガチャリと音がして、白い部屋へのドアのロックが解除される。ポールは、それが、「入って来い」の合図だと思い、席を立って部屋に入って行く(2枚目の写真)。「まず、言わせて欲しい。君に会えることを楽しみにしてた」。返事はない。「君は武器だと思われてる」。「違うよ」。「ランチは、救世主だと思ってる」。「それも違う」。そして、「僕は別の世界に属してる。そこにも人々がいる。そして、この世界を見てる。これまでずっと観察してきたんだ。僕は、そこに行かないといけない」(3枚目の写真)。「どこにあるんだ?」。アルトンの目が白く光り始める〔ポールが何を見せられたは分からないが、その後、ポールはアルトンに100%協力する〕
  

一方、ロイは夜間営業していない商業施設の前で車を停め、すべてを失った今どうしたらいいかを話し合う。しかし、こみ上げてくるのは救いようのない喪失感のみ。その時、突然、近くにあった公衆電話が鳴り出す。普通は、そんなことはあり得ないので、ロイはアルトンからの呼び出しではないかと急いで受話器を取る〔アルトンの超能力なら、ロイの近くの公衆電話を呼び出すことは可能だろうが、そのためにはロイが電話の近くにいないといけない。もし、運転中だとしたら、ハイウエイ・パトロールの無線に割り込んだのだろうか?〕。ロイが電話を取ると、出たのはポールだった。ポールは、「息子さんと一緒だ。これからそちらに連れて行く」と言うと、待ち合わせの場所の北緯と西経を教える。それが、「北緯29º04’31”、西経82º41’48”」で、4時間後という指定だった。その位置を5つ前の節に載せたGoogleマップの上に「印」で示す〔この「待ち合わせ場所」は、アルトンの最終目的地とは北西に215キロも離れている。映画では、落ち合ってから短距離で目的地まで到達するので、ここで教える北緯と西経は脚本の完全ミス〕。因みに、ポールが電話をかけている時、近くにあったプリウスをアルトンが超能力で解錠する。ポールが乗り込むと自動的にエンジンが入るが、ダッシュボードの表示は最廉価グレードのもの。輸出車はその程度なのか? ところで、ポールは、なぜ最重要人物であるアルトンをいとも簡単に基地から連れ出すことが出来たのか。そのヒントがその後の基地の会話から推定できる。基地内の電源が、予備も含めてすべてダウンしたのだ。出口も開きっ放しだった。朝になり、指定された場所でロイたちが待っていると、前方から1台の車がやってきて10メートルほど手前で停まる(1枚目の写真、矢印)。ポールは連れて来たアルトンを両親の元に行かせる(2枚目の写真、何が起きるか分からないのでルーカスが警戒して銃を向けている)。ポールは、「私は、あなたように説法のコードを解読しました。連中もあなたの目的地を知っていて、5マイル四方を閉鎖しています。突破できないでしょう」と正直に教える。しかし、アルトンは、「やれるよ」とロイに進もうと促す(3枚目の写真)。
  

ヘリが飛び交う中、空から見つからないよう、高架橋の下に車を停める。サラはアルトンに防弾ベストを着せ、ロイはぶかぶかなので粘着テープで脇の下を固定する。この時のアルトンとロイの会話は最も重要。「僕を心配しないで」。「心配したいんだ」。「もう必要ないんだ」(1枚目の写真)。これは、永遠のさようならと同じだ。「これからも、ずっと心配してるからな。約束する」。これだけ言うと、ロイはサラにも防弾ベストを着せる。「一度だけ車を停めるから、全力で走るんだ」。「分かったわ」。ロイとサラはじっと見合って抱き合う。そこにアルトンが加わり、3人で固く抱き合う(2枚目の写真、矢印はアルトン、銀色の粘着テープがよく分かる)。親子としての最後の抱擁だ。4人の乗った車は、T字路にさしかかる。どちらに行こうか迷うロイに、アルトンは「こっちだよ」と左折を指示する。「兵士が一番少ないんだ」(3枚目の写真)。ロイは後部座席のアルトンに「床に伏せてろ」と命じ、サラには「上から覆うんだ」と指示する。
  

道路は片側1車線の2車線。路肩の脇には溝があり通行できない。遠くの方に検問所が見えてくる。同時に、床に伏せたアルトンが、「見つかった」と指摘する。検問所の兵士たちは銃を構えて接近に備える(1枚目の写真)。ロイは、突破するしかないと、スピードを上げる。ルーカスは銃を構えようとするが、すかさずアルトンが、「撃たないで! 撃てば、撃ち返される!」と止める(2枚目の写真)。車の速度は時速94マイル〔151キロ〕に達する。突進してくる車に、兵士たちはバリケードから退避する。車は全速で突っ込むが、ダメージも大きい。ロイは、車を一旦バックさせ、絡み付いた鉄条網をバンパーごと落とすと、そのまま全速で先に進む。途中から未舗装の脇道に入り、しばらく進むと、アルトンが「ここだ!」と叫ぶ。車は急停車。真っ先にアルトンが降り、サラがそれに続く。そのまま姿を消してしまうと思ったロイは、大声で「アルトン!」と呼び止める。アルトンが立ち止まって振り向く(3枚目の写真)。2人は二度と会うことはない。寂しい別れだ。
  

ロイとルーカスの乗った車は、「おとり」として そのまま走り続けたので、アントンが軍に追われることはなくなる。アントンが向かった先には広大な湿地が広がっていた。サラを森との境に残し、アントンは湿地の中に入って行く。そして、立ち止まると周囲を見回す(1枚目の写真)。目が白く輝き出し、構えた右手からは黄色の光も輝き始める(2枚目の写真)。そして、爆発のような巨大な衝撃波が広がって行く(3枚目の写真)〔発生の中心は、先に表示したGoogleマップの赤いピン印の場所と同じ/衝撃波の範囲はさらに広がるが、写真に映っているだけでも直径300キロ弱もある〕
  

衝撃波から身を守っていたサラが空を見上げると、そこには異様な構造物が聳えていた(1枚目の写真)。すべてアルトンの世界の人々が長年かかって築き上げてきたものだ。解説によれば、アントンの正面に立っている階段状のものは一番古くて石で出来ているのだとか。同じような構造物は、半分壊れた車で逃げているロイとルーカスの前にも出現する(2枚目の写真)。2人にとってこれが見られたことは唯一の救いだった。忽然と現れた「都市」は、ポールも見ることができたし、衝撃波の最大直径は1200キロを超えたので、遠くメキシコ湾の石油プラットフォームやフロリダ半島の大都市の中でも見ることができた。アルトンは、いつしか光る目の人々に囲まれる。アルトンは最後にサラをじっと見つめ(3枚目の写真)、そして目を閉じる。すると広がっていたバリアが一点に収縮する。そして、「異世界」は一瞬のうちに消滅する。残されたサラは、警察や軍に捕まることなくGSのトイレに行き、おさげ髪を切り落とす。ロイとルーカスの末路はもっと可哀相で、特殊な施設に収監され取調べを受ける。映画はそこで終る。副題として「無償の愛」を付けた理由は、3人がアルトンに注いだ深く何の見返りもない愛情に敬意を表したかったから。
  

      の先頭に戻る                    の先頭に戻る
     アメリカ の先頭に戻る               2010年代後半 の先頭に戻る

ページの先頭へ